Mary K. Pratt
著者:

クラウドを成功させるためのIT変革

クラウド トランスフォーメーションを最大限に活用するには、ITに対する新しいアプローチが必要です。CIO達は、ITの組織と戦略を再構築することで才能ある人材を活用し、従来のプロセスを排除しています。

japan-cloud-leader-vision-man
画像提供: Shutterstock

Halfords GroupのCIOであるNeil Holden氏は、同社がクラウド化を進めるにあたり、ITオペレーションを単に「リフト&シフト」する以上のことを実現しようと考えました。

Holden氏は、多くのCIOがそうであるように、クラウドの利用を拡大することで会社の変革のアジェンダの実現と形成を図ろうとしており、その目的を達成するためには、技術スタックだけではなく、自社のIT部門も変革しなければならないことを認識していました。

「いかなる種類のクラウド導入でも、必ず自社のIT(部門)の構造を見直す必要があります」とHolden氏は言います。「ITは今、クラウドのためだけではなく、クラウドがビジネスにとってどのような意味を持つかということを考慮した、これまでとはまったく違った運用が必要なのです。」

そこで、英国最大の自動車とサイクリング製品の小売業者であるHalfordsで2017年からCIOを務めるHolden氏は、同社の技術チームを再編する戦略を打ち出しました。再編は、会社全体のクラウド戦略の考案中に行なわれました。それが、クラウドが提供する機能とクラウドが実現できるビジネス機会を社員が確実に享受できるようにするための最善の方法であると考えたからです。

「達成するには、適切な体制を整える必要があります。クラウドにただモノを置いておくだけでは、その投資を(最大限に)活用できないからです」と同氏は説明します。

CIOならびに研究者、コンサルタント、顧問は、クラウド コンピューティングから最大限の利益を得るには、仕組みや従業員の編成など、IT部門そのものを変える必要があるという点で意見が一致しています。

そうでなければ、IT部門は単にサーバーの場所を自社のデータセンターから第三者のデータセンターに移行するだけで、クラウド導入によって可能となるイノベーション、トランスフォーメーション、TTM(市場投入までの時間短縮)を逃してしまうリスクがあると指摘します。

「オンプレミスからクラウドに同じスキルとチームを投入することはできません。それが失敗の元となります」とTata Consultancy Servicesのバイス プレジデント兼北米クラウド トランスフォーメーション担当責任者であるSushant Tripathi氏は言います。その代わりに、CIOはクラウドが提供するあらゆる機能を駆使するために、ITの再トレーニングと再編成を行う必要があると同氏は説明します。

ここでは、4人のITリーダーが、この課題にどのように対処したかをご紹介します。

直線的なプロセスからの脱却

Holden氏による再編では、直線的なソフトウェア開発、直線的なプロジェクトのプロセス、そしてその直線的な仕事の進め方に対応した部署のチーム体制の排除にある程度の重点を置きました。

「体制をまるごと変えました」と同氏は言います。

これまで、HalfordのIT部門は通常、ビジネス分析、ソリューション デザイン、インフラストラクチャなどの個別のチームで構成されていました。その体制のもとで、業務は一つのチームから次のチームへ、順番に移っていきました。

「誰かが企業と話をして、要件を設計チームに渡し、その後デリバリー チームとインフラストラクチャ チームに渡します」とHolden氏は言い、各チームがそれぞれ単独で作業を進め、各チームの成果物やタイムラインを明確にして合意したと説明します。「今では、そのすべて(の作業)が反復的デリバリーを伴うアジャイルなサークル内で起こるので、直線的なプロセスはすべて一緒に消え去りました」。

では、どのように実現したかを説明しましょう。Holden氏は、クラウド統合エクスペリエンスを導入し、同氏が取り入れたアジャイル手法のトレーニングにクラウド アーキテクトを雇いました。また、既存のスタッフにクラウドのスキルやアジャイル手法のトレーニングも行いました。さらに、ITチームと連携するためのアジャイル コーチを雇用しました。そして、個別の独立したチームを解体し、プロダクト所有者ビジネス アナリストソリューション アーキテクト、フロントエンド開発者、バックエンド開発者、テスターで構成されるScrumチームを作成しました。

新しいScrumチームは、直線的ではなく、反復的に作業することで、新機能の提供を加速し、ITとビジネス全体が会社のクラウド投資を活用できるようにしました。

「この変革の大きな特徴は、クラウドだけでなく、人の心も変えることでした。そのため、トレーニングに非常に力を入れました」と語るHolden氏は、2021年後半に、この新体制へのほぼ完全な切り替えを取り仕切ったとも言います。

Holden氏は、この組織再編の価値を、チームのより迅速な対応力に見い出していると述べています。同氏の計算では、再編されたITチームが42日間で作成およびデプロイしたあるプロジェクトは、従来のIT部門だったら完成に152日かかったはずです。

クラウドの人材を発掘するためのコアとチャプター

アリゾナ州立大学(ASU)のCIOであるLev Gonick氏も同様に、クラウドがもたらす機会をより的確に捉えるためにITチームを再編成しました。

その再構築は、すぐにはできなかったとGonick氏は言います。ASUは10年前に実験的にクラウド化への取り組みを始め、その後、2017年にGonick氏がCIOに就任すると、より戦略的で積極的なクラウド導入に踏み切りました。ASUは現在、ワークロードの約85%をクラウドで運用しています。

Gonick氏は、ビジネスニーズに対応し、大学の成長に合わせて拡大できるようにアジャイルでいるためには、チームが変わらなければならなかったと言います。同氏の解決策は、「組織を根本からフラット化する」ことでした。

「私にとってはいちかばちかの賭けでした」とGonick氏は振り返ります。この変更を行うことを決定したのは、コロナ禍の初期でした。「縦割りのチームの代わりに、大規模なソフトウェア開発ショップで言うところの一連の『コア』を作成しました。」

Gonick氏によると、これらのコアは「迅速に再構成が可能な人材のプール」であり、それぞれが5つの特定の分野に注力しています。チームとその作業の大部分は、5つのコアを中心に構成されており、それらは一般的な慣行に基づいたプロフェッショナル開発コミュニティであると同氏は説明します。エンジニアリング、サービス提供、プロダクトとプログラム、データとアナリティクスの4つのテクニカルコアがあり、5つ目のコアは学習体験に関連するものです。

プロダクトとプログラムのコアのマネージャーは、Gonick氏が作業グループになぞらえるチャプターで一緒に作業するにあたって適切な人材の組み合わせを提案します。たとえば、エンジニアリングのチャプターは30あります。

「なぜこのようなことをしたかというと、クラウドが与えてくれる機会に対応するためです」と同氏は説明します。この組織構造により、ITプロフェッショナルは「嫌な仕事を強いられ、同じツールを使用して日々作業する」のではなく、多様なプロジェクトに取り組むことで、才能を伸ばし、発揮することができるとも言います。

同氏は続けます。「まさに人間の才能を引き出すことが目的でした。これは私の個人的な見解ですが、企業の技術チームのほとんどは、階層的な体制に縛られており、多くの才能ある人材が息苦しさを覚えています。ほとんどの(プロフェッショナルな)人たちは、幅広い知識を持っていますが、それを探求し、共有し、構築する機会がほとんどありません。しかし、この体制のおかげでチームはプロフェッショナルなコミュニティとして成長し、自分たちのチームだけではなく、ビジネスにも大いに関与する機会を得ることができます。」

クラウドを成功させるためのチームの一元化

ASUと同様、Liberty Mutual Insuranceもこの10年間にわたりクラウド化への取り組みを続けてきました。実験的な利用から始まり、「市場投入のスピードを上げ、コストを下げ、機能のオンとオフを柔軟に使い分ける」ことができるよう、6年前から全面移行したとMonica Caldas氏は言います。同氏は、2018年からLiberty Mutualで2つのIT幹部職を務めた後、1月に執行副社長兼グローバルCIOに就任しました。

Liberty Mutualのクラウド化の過程で、IT部門のリーダーはオンプレミス環境からクラウド環境に移行するために必要な人材とスキルの育成に重点を置いてきた、とCaldas氏は言います。「誰もが役割を担う、大規模な変革になりました。」

その一環として、Liberty Mutualのインフラストラクチャ チームは、長年管理してきた膨大なハードウェアを維持する必要がなくなったため、再構築の必要がありました。インフラストラクチャ チームは、再構築されるのではなく、会社全体に活用できるクラウド機能に焦点を当てたグローバルな使命を担う、一元化されたデジタル サービス部門に生まれ変わりました。

Caldas氏は、これまで、インフラストラクチャの専門家は、会社のビジネス部門と連携してその部門をサポートすることに重点を置いていたと言います。「しかし、方向性を示すロードマップ付きの戦略は一つもありませんでした。」

グローバルな使命を担う、新しいデジタル サービス チームがいる新体制のもとでは、会社全体が簡単にアクセスして利用できる再現性の高いプロセスが構築され、「納品スピードにフライホイール効果が出ている」と同氏は言います。

さらに、デジタル サービス チームは一元化されているため、より効率的に成果を発揮でき、コストを削減していると言います。そして、チームメンバーがスキルを磨き、プロセスを洗練させることで、チームはさらに効果的に作業を行えるようになり、質の高い結果を出すことができるようになります。

「当社のグローバル デジタル サービス(GDS)チームは、重要なビジネス アプリケーションを常に利用できるようにするための一元化された部門です。Liberty Mutualのアプリケーションとインフラストラクチャ フットプリントの70%がパブリック クラウドで運用されているため、GDSは会社がより迅速に作業できるよう、会社のグローバル クラウドとDevOpsのアーキテクチャと運用を監督しています」とCaldas氏は言います。

他のITチームは、ビジネスニーズに対応したソリューションの提供に焦点を当てています。

「当社は、顧客、代理店、クライアント、パートナーのために差別化された機能を提供することを使命とし、コア ビジネス ユニットの成果を促進することにも重点を置いた技術チームがあります」とCaldas氏は説明します。

また、Liberty MutualのITリーダーは、「安全で安定したシステム」を確保することをグローバルな使命とするサイバー セキュリティとオペレーショナル レジリエンスを一元化したチームも設立しました。

Caldas氏は言います。「現在、当社はグローバルな組織として、一つの戦略、ロードマップ、ビジョン ステートメントを軸に、どこに向かって進むのか、その方向性を定めています。当社の顧客、代理店、クライアント、パートナーにとって、すべてがデジタル ファーストであり、当社のクラウド化への取り組みは、競争力を高めるためのテクノロジーの使い方という点で、このデジタルファーストを完全な形で実現します。」

より優れたセキュリティ運用を実現するためのチーム統合

Booz Allen HamiltonのCIOであるBrad Stone氏にとって、クラウドは必要とされる機能を迅速に提供し、ビジネスのイノベーションとトランスフォーメーションをサポートするものです。

「それを確実に活かせるように会社自体を編成しました」と同氏は言います。

これには、セキュリティ戦略へのアプローチ方法も含まれます。Booz Allenがクラウド投資で確実に成功を収めるために変革する必要があるとStone氏が考える分野です。

同氏は「サイバーセキュリティ チームとITオペレーション チームの間に強固な基盤を構築する必要がありました」と述べ、企業全体で一貫したセキュリティ運用を行うことがリスクの特定と低減につながると強調します。

セキュリティの統括も行うStone氏は、Booz Allenのセキュリティ業務がこれまでオンプレミスのインフラストラクチャをサポートする部門、クラウドをサポートする部門、そして同社のSaaS(Software as a Service)プラットフォームをサポートする部門という3つのインフラストラクチャベースの部門で構成されていたと言います。

すべての3つのチームが単一のリーダーの直属であるにもかかわらず、各チームは自分のチームだけに合わせ、その結果、個々の縦割りと技術の非効率が生じたとStone氏は言います。さらに、各チームが単独で情報を得ているため、その違いは、リスクを管理・軽減しようとするセキュリティ チームの作業が増えていました。実際、これにより、セキュリティ チームはオンプレミスに必要なツールとSaaSに必要なツール、さらに商用クラウドに必要なツールがあると考え、「レガシーな考え方」と「断片的なアプローチ」を助長していました。

「共通化、共通視認性に苦労し、あまりにも混乱が多かった」とStone氏は言います。そこで同氏は、3つのインフラストラクチャ チームを一つに統合したインフラストラクチャとコンピューティングのチームにまとめ、「オンプレミス対クラウドではなく」、「よりチーム スポーツに近い形」にしました。元の3つのチームそれぞれから集まったスタッフが、部門の垣根を取り払い、Booz Allenに存在するあらゆる種類のインフラストラクチャに対応できる結束したユニットとして働くためのクロストレーニングを受けています。

この作業には、2021年から2022年まで約8か月かかったと同氏は言います。インフラストラクチャとコンピューティングの統合チームのおかげで、同社の混合技術環境により適したセキュリティ運用をモダナイズできたとも述べています。

「当社のセキュリティ チームはこれまでになく上手く統合されました」と同氏は言います。つまり、セキュリティ オペレーションは、それぞれ個別の可用性、信頼性、機密性要件に対応する代わりに、インフラストラクチャ全体でその3つに対応することができます。そのため、セキュリティが効果的かつ効率的になるのです。」

これを説明するために、Stone氏は例を示してくれました。「たとえば、オープン ソースのソフトウェアに重大な脆弱性があるとします。異なるインフラストラクチャを別々に運用し、縦割りにしてしまうと、脅威の発見や対処にスピード感を持って対応することが難しくなってしまいます」と同氏は言います。

しかしこの3つすべてを統合されたインフラストラクチャ チームにまとめることで、セキュリティは共通のツール、単一のITサービス管理ソリューション、一つの構成管理データベースを全体的に使用できるようになり、セキュリティ問題を発見してタイムリーに対応する能力が高くなります。

Mary K. Pratt

Mary K. Pratt is a freelance writer based in Massachusetts. She worked for nearly a decade as a staff reporter and editor at various newspapers and has covered a wide range of topics over the years. Her work has appeared on the Wall Street Journal, the Boston Globe, the Boston Business Journal, and the MIT Technology Review among other publications. Today Mary reports mostly on enterprise IT and cybersecurity strategy and management, with most of her work appearing in CIO, CSO, and TechTarget.

Mary won a 2025 AZBEE award for her government coverage on CIO.com.

この著者の記事