複数の戦略目標を単一のビジョンと投資で達成することは、デジタル投資に余裕がなく、望ましいビジネス成果が広範囲に及ぶ場合には特に重要です。

多くのCIOは、変革への取り組みのプレッシャーの増大、毎週のように発表される一時解雇、景気後退の見通しに直面し、困難な1年を過ごすことになるでしょう。
2023年から2024年にかけて、デジタルイニシアチブと人材が取締役会のビジネス上の戦略的優先項目の上位を占める一方、2023年のIT支出の伸びはわずか2.4%であると予想されています。テクノロジー企業は、2022年以来25万人以上の従業員を解雇しており、93% のCEOが今後12~18か月の間、米国の景気後退に備えていくと報告しています。
CIOの皆様には業務効率の向上を提案します。つまり、CIOはデジタルトランスフォーメーションの取り組みを、過去数年とは異なる視点で見る必要があるということです。
パンデミック発生までの数年間は、デリバリーのスピードが第一の目的であり、CIOはカスタマーエクスペリエンスの向上とリアルタイム分析機能の確立に目を向けていました。パンデミックの最中も、CIOはワークフローの自動化と従業員エクスペリエンスの向上にシフトするにあたり、引き続きスピードが優先事項でした。
しかし、2023年は逆説的な展開になりそうです。ここ数年、何百人ものCIOと話をした際に、私はデジタルトランスフォーメーションの取り組みにフォースマルチプライヤーを求めるようアドバイスしてきました。
フォースマルチプライヤーのイニシアチブとは
フォースマルチプライヤーによるデジタルトランスフォーメーションの取り組みは、単一のビジョンと投資によって複数の戦略目標を達成することを目的としています。たとえば、カスタマーエクスペリエンスと従業員エクスペリエンスの両方を向上させる取り組みや、イノベーションとセキュリティ強化の組み合わせを実現する取り組みなどが挙げられます。
ここでは、マルチプライヤーではないイニシアチブの例として、順を追って行う段階的なデリバリーの例を紹介します。CIOはこの手法に馴染みがあるでしょう。一部のIT組織は、アプリをクラウドにリフト&シフトし、データセンターからの早期撤退を選択することで、モダナイゼーションの資金調達の第2段階が来ることを期待しました。しかし、移行を早めた結果、アプリのパフォーマンスが低下し、セキュリティ リスクが高まり、コストが上昇し、ビジネス成果が低下することがしばしばあり、IT部門はアプリのモダナイゼーションを開始する前にこれらの問題への対処を余儀なくされます。フォースマルチプライヤーのアプローチでは、複数の目的を考慮し、スピーディーなクラウド移行によって変革により時間とお金がかかってしまう可能性があることを認識しています。
それでは、デジタル トランスフォーメーションを推進し、フォースマルチプライヤーを特定し、よりスマートで安全かつ迅速なビジネス成果を実現する取り組みを定義するために、CIOは今何をすべきでしょうか?今後の記事で、フォースマルチプライヤーの例をさらに紹介する予定ですが、ここでは、ほとんどのCIOとそのIT組織に適用される3つの例を紹介します。
ローコードエクスペリエンスを最適化するハイブリッドチームのためのアジャイル
アジャイルマニフェストは、22年前、IT部門がウォーターフォール型のプロジェクト計画に苦慮していた頃に書かれたもので、ビジネス成果を達成することはおろか、プロジェクトを完了させることもできないことが多かったようです。現在多くのCIOは、どのアジャイルツールを使い、どこで実践基準を作成するかを決定しなければなりません。
スクラムのコーチを集めたら、自己組織化したチームにはどの程度の権限委譲が必要か、ユーザーストーリーをいつ見積もるのか、開発チームがCI/CDでデプロイメントを自動化する際にスプリントは引き続き必要なのかといった議論になる可能性は高いでしょう。
多くの組織がアジャイルやスクラムで成功を収めています。私もアジャイルな実験がデジタルトランスフォーメーションを推進する礎になると信じていますが、万能なアプローチは存在しません。組織の規模、プログラムの種類、コンプライアンス要件、カルチャー的に準備ができていることは、考慮すべき重要な項目のほんの一部にすぎません。
見過ごされているいくつかの項目が、アジャイルプラクティスをデジタルトランスフォーメーションのフォースマルチプライヤーとして推進するのに役立ちます。
- デイリースタンドアップからハイブリッドなバーチャルセレモニーへの移行。アジャイルなチームメンバーがよく口にする不満の一つに、調整ミーティングの回数とそれにかかる時間があります。CIOは、対面での会議に代わるハイブリッドワークモデルを促進する技術を検討する必要があるでしょう。スクラムマスターはSlackやMicrosoft Teamsを使ってスタンドアップの一部を行い、アジャイルなチームリーダーは仮想のスプリントレビューを記録して、チームメイトや関係者が都合の良い時間にレビューできるようにします。
- ローコードやノーコードのエクスペリエンスを開発する際にアジャイルを適用する。アジャイルというとソフトウェア開発手法が主体というイメージがありますが、多くの組織では、マーケティングやその他の部門のワークフローでカンバンやスクラムを使用しています。ビジネス関係者とITの間とのカルチャー的および実践的ギャップを埋めようと試みるCIOは、ビジョンと実践を統一する橋渡し役として、市民開発(ノーコード)やローコードアプリ開発にアジャイル手法を適用することができます。
CIOにとって重要なのは、組織のアジャイルな働き方を見つけ、IT部門の枠を超えてテクノロジー能力を拡大する他の取り組みと連携させることです。
データサイエンスプログラムとデータガバナンスプログラムの整合
情報セキュリティがアプリケーション開発プロセスの最後に導入され、問題に対処する時間や機会がほとんどなかったことを覚えていますか?DevOpsチームは現在、より革新的で安全かつ信頼性の高い機能を最初から開発するために、セキュリティを前倒しして、継続的テストを実装することを検討しています。
データ機能やアナリティクス機能の構築を目指すCIOにも同様の懸念があります。
データドリブンの組織を追求するうえで、CIOは、機械学習モデルを開発する一元化されたデータ サイエンティストチーム、セルフサービス型のビジネスインテリジェンスツールを利用するデータアナリスト、そして業務機能で今も使われている無数のスプレッドシートを一元化することになるでしょう。多くの場合、リスク、コンプライアンス、またはセキュリティ組織への報告には、データセキュリティ、プライバシー、および品質に焦点を当てたデータガバナンスチームが別に存在します。
フォースマルチプライヤーを求めるCIOは、多くの専門分野にわたるアジャイルなデータチームを構築し、ビジネス目標と連携させることで、DataOps、データ サイエンス、データ ガバナンスの取り組みを統合させるでしょう。
ここでは、アジャイルなデータチームが達成可能な、フォースマルチプライヤーの違いをいくつか紹介します。
- そのダッシュボードが必要なら、データカタログを更新する
- 更新されたデータの可視化をリリースしたら、リグレッションテストを自動化する
- 新しいデータソースを統合し、そのデータをスキャンして個人を特定できる情報をマスキングする
データガバナンスのベストプラクティスを適用せずにデータを可視化したり、MLモデルを構築すると、リスクが発生し、技術的負債およびデータ負債が増大します。
より多くのアプリでパフォーマンスを向上させるAIOps
ある調査によると、世界のカスタムソフトウェア開発の市場規模は2028年までに859億ドルに達し、年平均成長率20.3%で上昇すると報告されています。
IT運用チームが、自動化や機械学習機能を使わずに、アプリの信頼性やパフォーマンス、セキュリティを高めながら、この成長についていけるとは考えられません。オブザーバビリティデータを一元化し、モニタリングアラートを相関させ、自動応答を可能にするAIopsプラットフォームは、アプリが多すぎてネットワークオペレーションセンター(NOC)でインシデントに対応する人材が少ない企業にとって、デジタルトランスフォーメーションのフォースマルチプライヤーとなり得ます。
これら3点は、デジタルトランスフォーメーションを推進するすべての組織が考慮すべき、フォースマルチプライヤーです。業務効率を向上し、より迅速でスマートなビジネス成果を上げ、より安全なイノベーションを実現しなければならないというプレッシャーは、今後もしばらく解消されることはないでしょう。